「一白水成」を醸す福禄寿酒造が目指す”日本酒を通したローカリズムの発信”

こんにちは。まるじです。

朝晩がキュッと冷え込むようになった9月の秋田県。僕は見渡す限りの田んぼと、大きなイオンが印象的な「五城目町」という田舎町に来ていました。

「朝市」で有名な五城目町では毎月2・5・7・0のつく日に、通称「朝市通り」と呼ばれる商店街が地元の多くの人で活気づきます。

その「朝市通り」の入口にそびえ立っているのが今回の目的地「福禄寿酒造」です。
「一白水成」というお酒を造っている酒蔵と言えば分かる方が多いでしょうか。

右手の通りが「朝市通り」

蔵自体が全国登録有形文化財に指定されている歴史のある酒蔵。創業は元禄元年(1688年)だそうです。300年以上も前だよ…。それだけ残っている企業ってどれだけあるんでしょうか。

そんな福禄寿酒造ですが、先程述べた「一白水成(いっぱくすいせい)」という銘柄で全国的に流通していて、多くの日本酒ファンに愛されています。

僕が抱いている一白水成のイメージとしては「分かりやすく旨いお酒」。スルスルと飲み続けることができるクリーンな酒質とともに、そこにはしっかりと噛みしめるような旨味が乗っていて、濃い目の味付けの料理にも押されることなく相乗効果で美味しくなっていく。といったイメージのお酒です。

そんな一白水成を醸す福禄寿酒造16代目蔵元の社長・渡邉康衛さん直々に蔵を案内して頂きました。

ご本人Facebookプロフィールより。

まぁとにかく人柄の良さがにじみ出てるんですよねぇ。康衛さん。
お父さんは五城目町の町長さんだそうです。お家柄の良さがビシビシ伝わってきます。

 

酒造りは「農」から

康衛さんの車に乗せてもらって、まず案内してもらったのが近所の田んぼ

福禄寿酒造では日本酒造りは10月から3月までしかやらないそうです。

お酒を造らない期間は、蔵人たちは米作りをしています。季節労働者だけではなく、社員として通年雇用をしていきたいという考えのもと「夏田冬蔵」を実践している。

しかも、自社で育てているのは酒米ではなく飯米。

福禄寿酒造では昔の文化に倣っていまだに「まかない」が出るそうです。自分たちで作るお米は自分たちで育てる。これには驚きましたし、食に携わっている人間として、その環境が羨ましいなと感じました。

福禄寿で使う酒米の7割近くは地元の契約農家さんに作ってもらっているそうです。地元の農家さんに「うちのお米で一白水成は造られてるんだぞ」と誇りを持ってもらえるような酒造りをしたいと康衛さんは言います。

その一方で、兵庫の山田錦を育てている契約農家さんのお米も敢えて使うそうです。
というのも、地元の農家さんと兵庫まで山田錦の栽培を見に行ったり、JAの取り組みを見に行ったりと米作りを通して交流があるようで「他の地域のお米も使う」ことによって学びと刺激を享受している様子でした。

やはりトップクラスの酒蔵は、良いお酒を作る理由を「蔵の外」にも多く持っているなと改めて感じました。

 

福禄寿酒造の歩みとその歴史

先程見てきた米作りのことや蔵の歴史なども詳しくお話してくれました。蔵は200年以上前に建てられたもので、撮影などにもよく使われるそうです。

多くの貴重な資料や展示物が飾られていて、酒造りだけでなく「歴史を伝えていく」ということもこの蔵の役目なんだなぁと実感しました。

 

酒造りに使う「水」のお話

森山から見下ろした五城目町

一白水成の仕込み水は蔵の地下から湧き出るお水を使っています。いわゆる「中硬水」で、カルシウムイオン、マグネシウムイオンが多量に含まれており、その含有量は最良のイオンバランスといわれている2:1の比率を保っているそうです。

ただ、康衛さんが農大から蔵に戻ってきた当時は軟水での酒造りが主流で、試験場の先生に「この水では絶対に鑑評会で賞を獲ることができない」と言われたこともあるそうです。康衛さんは目指す酒質を実現するために、蔵に戻って3年ぐらいは違う場所に水をもらいに行ったり、水道水を使ったりするなどして対応していたそうです。

しかし、数年後。再び蔵に湧き出る地下水を仕込み水に戻す決断をします。

福禄寿酒造HPより

なぜ仕込み水を地下水に戻したのか。その理由を伺うと「ワインは良い葡萄ができる場所を求めて醸造所を構えるでしょう?日本酒の場合はそうではなくて、お米に合わせて醸造所を作るということをしない。あくまで水を探し求めて醸造所を作るんですね。そう考えた時に、300年前にご先祖様はこの水を求めてここに蔵を建てた訳です。その水を使うことによって一白水成にしかないコクや味わいを出す事ができるはずだと思ったんですね」と仰っていました。

「この場所でしかできない酒造り」を目指した上で一白水成は造られていたんですね。

 

木桶の甑(こしき)

お米を蒸すための「甑(こしき)」は木桶のものを使っています。もちろんウッドワーク社製。

木桶の甑を使う理由を「私のワガママですね」と笑う康衛さんですが、工夫次第で「甑はだ」を防ぐこともできるし、外気温との差を緩衝してくれるので蒸しあがりも良好とのこと。随所にこだわりを感じます。

近年、酒造りにおいての木桶の有効性が見直されていて、有機物がお酒に与える影響を考える機会が増えました。僕が様々な蔵を見て周って思うことは「二極化」が進んできているということ。

 

ステンレスやパネルを随所に使い、菌の活動を完全にコントロールしてクリーンなお酒造りを目指す蔵。一方で、土壁や木を多用し菌と戯れながら、その活動を導くように酒造りを行う蔵。

どちらが「良い」とか「悪い」とか言う話ではなく「理想とするお酒を作るための手段」としてそれらの方法を選択しているということ。「アイデンティティをどう表現するか」それが日本酒の楽しみでもあります。

 

蓋から箱へ

なんと麹室の中も見せていただきました!

日本酒ファンならば【一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)】という言葉を聞いたことがあるでしょうか。その言葉にもある通り、酒造りにおいて最も大切だと言われる工程「製麹」。

一白水成の麹室は秋田杉を全面に使用しており、蔵人の大工さんによって毎年少しづつ進化しているそうです。

また、製麹方法も上喜元の佐藤さんに習い、麹蓋法から箱麹法に変更したそうです。そうすることで大幅に作業効率が向上し、麹の質も上がってきたそうです。

日本酒業界って農大の醸造学科を中心に、横の繋がりが深い。情報交換や技術交換も盛んに行われていて、業界全体でどんどんレベルアップしています。結果的にそれが全体の酒質向上、ひいては一過性のブームではない日本酒ファンの増加に寄与しているのでしょう。

 

醪の管理

こちらの仕込み蔵は大きな冷蔵室になっていて、普通種などの安価な価格帯のお酒の醪を管理しているそうです。

福禄寿酒造ではサーマルタンクを一切使っていないと言います。その理由は、一本一本のタンクごとに冷やすというよりも、部屋全体の温度を下げることによって寒造りの空気感を再現するためだそう。とはいえ冬になると冷房は全然使わないので、主に気温が上がってからの瓶貯蔵に活用されていました。

この写真はハイクラスのお酒を管理する仕込み蔵。ここにも秋田杉がふんだんに使われており、大工さんの素敵な仕事ぶりが伺えます。こちらは冷蔵設備なし。

通常ハイクラスのお酒にこそ冷蔵設備を駆使し、厳格な温度管理をもって製造されることが多いのですが、福禄寿酒造はその逆の管理を行っていました。

その理由を「ハイクラスのお酒を冷蔵設備を使わず仕込むことで、その年の気候だったり五城目の空気感や景色を感じてもらえるのではないかと思っています。また、そうすることで価格帯の低いお酒を冷蔵設備を使って造れるので全体としてグッと酒質が向上しましたね」と語られました。

水だけに限らず「その土地で代々お酒を作る意味」を感じさせてくれる造り方を徹底的に追求していて、これから一白水成をいただく時に、自分の中にどういった景色が広がるのか楽しみになりました。

 

ローカルに根ざすこと。その先に見る大きな市場

福禄寿酒造を訪れて一番強く感じたことは「福禄寿酒造が五城目という街のコアを支えている」という事実でした。

父親が町長さんだからといったことではなく、康衛さん自身が地域のイベントや活動に積極的に参加し、多くの方と交流を図っていて、五城目において無くてはならない存在であることを実感しました。

ここまで売れるお酒を造ると「地元で」というよりは「東京で」とか「世界で」といったビジョンを持っているのかと思っていたのですが「地元の人が誇れるようなお酒を」という康衛さんの言葉にもあるように、しっかりと地域のことを考えて事業を進めているように感じました。

現在は「五城目町酒米研究会」にて地域ぐるみで米作りを行っていて、その先には自社での農業法人の立ち上げも目指しているそうで。任期終了後の地域おこし協力隊の女性を社員に採用するなど、地域を代表する「いち企業」として、僕の目にはとても魅力的に映りました。

近くの大潟村の松橋ファームさんと共同で「農家がつくる日本酒プロジェクト」というテーマで「農醸」というお酒を作ったりもしていて、しっかりと地域の一次産業との結びつきを感じ取ることができます。

「いま米作りをやってもらっている農家さんも5年後やってるか分かんないでしょ?農家さんが引退される時に『僕らがこの田んぼをちゃんと引き継ぎますよ』って言える環境を作っておきたいんだよね。そうすれば耕作放棄地も増やさなくて済むし、農家さんも安心して引退できるし、若い世代の雇用も確保できる」と康衛さん。

日本酒がこうして大きなムーブメントとなり、蔵や蔵人にスポットライトがあたるようになった今、「どういうお酒を造って、どうしていきたいか」というアイデンティティの部分が強く問われるようになってきています。そしてその先に見るビジョンによって、お酒の味わいにも変化が生まれるわけです。

福禄寿酒造の思い描く理想には地元への強い愛着が感じられました。酒造りを通して、地域ごと活性化され雇用を生みだす。そしてその想いは、東京や世界の舞台でも通用する高いレベルの「日本酒」というプロダクトによって思いきり表現されています。五城目という小さな町を愛する多くの仲間達とともに、今年も「福禄寿らしい酒造り」が行われているのです。

 


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