「新政」に行ってきたので、その魅力について語らせていただく。

こんにちは。まるじです。

 

「どの日本酒がいちばん好きですか?」と聞かれることがしばしばあります。

 

その問いに対して正直に答えるとするならば……

 

”お酒の味なんて飲む場面によって感じ方が大きく変わる”ものなので、一番好きなお酒というものは無いです」

 

と答えたい。これが本音。

 

でもそれ言っちゃうと会話が終わっちゃって、クールぶってるつまんない男グランプリを5年連続ぐらいで受賞しかねない。

 

 

だから僕は毎回「新政が好きなんですよねー」と答えるようにしている。

あえて。

でも嘘ではない。

 

「新政が好きだ」という僕の答えに対する反応はおおよそ2種類あって。「新政おいしいですよね!」というパターンと「あぁ……新政ですかぁ」というもの。

 

新政を知らない人に対しては、これからこの記事で述べるようなことを、かいつまんで説明してるんですけど。

 

 

僕は新政を「ジブリ」みたいなものだと思ってて。

 

作品自体が好きな人。宮﨑駿が好きな人。鈴木敏夫がいるから成り立ってんだって言う人。ジブリっていうチームがすげーんだよって人。もちろんジブリが嫌いな人もいる。いていい。

 

なぜ新政からジブリを感じるのか。新政ってどんな蔵なのか。今日は掘り下げてみたいと思う。

 

新政酒造株式会社

「あらまさ」って読みます。

新政という日本酒の蔵は秋田県秋田市という市街地に存在します。

日本酒が好きな人に対しては、もはや説明不要と言いますか。全国的にそれはもう有名な蔵でありまして。先進的な取り組みと、懐古的な造りをハイブリッドで両立させ、それを日本酒という「作品」で表現している今や日本酒業界において唯一無二といえる存在であります。

「新政が好きなんです」と答えた時に「あぁ……新政ですかぁ」と残念そうな顔をする方は、「応援してたインディーズバンドが急激に売れて、メジャーのど真ん中に行きミュージックステーションに出てるのにチャンネルを変えてしまう」あの感じを持っている人が大半です。

 

つまりは「なんだよ。ミーハーかよ。はいはい」的なそれです。

 

2017年9月。僕はそのミーハーの聖地。新政の酒蔵見学に行ってきました。
(基本的に酒蔵見学はやっていないので、知らない人が急に行っても入れてもらえませんので悪しからず。)

 

こちらは蔵人の岡住くん。

岡住くんには数年前に東京で出会っていて。出会った当初は彼が蔵に入って間もないころで「右も左も分からない若者」という感じでしたが、いまや新政に無くてはならない存在にまで成長しており「酒造り」に対して日々真剣に向き合っているんだなぁと感激しました。

 

その岡住くんが丁寧に「新政酒造」について詳しく教えてくれました。

 

嘉永五年(1852年)創業の歴史ある蔵。現在、代表を務める「佐藤祐輔」さんで八代目となります。その祐輔さんが東京から秋田の蔵に戻ってから、新政の快進撃が始まるわけですが。

祐輔さんは東京で「東大卒のフリーライター」として仕事をしており、日本酒業界としては異色の肩書きを持っています。ありふれた安い普通酒を作る酒蔵から、全量純米吟醸酒に路線変更。蔵に戻ったのが当時32歳。そこからガンガン改革を図り、いまや押しも押されぬ日本酒業界のトップランナーとなっています。

この辺りのことは日本酒メディアに限らず、経済誌など様々な媒体で取り上げられており、僕が語るまでもありません。他の記事を当たってもらったほうがコレについては詳しく書いてあるでしょう。

新政酒造8代目「佐藤祐輔」

たしかに昨今の新政人気は、祐輔さんが描くクラシカルでありながら奇抜なアイデアや思考を、高いレベルで表現できていることによるもので。病的なまでに考え込まれた緻密で繊細な思想を日本酒で表現するということはなかなか難しい。それをデザインの力を含めここまで昇華させ、熱狂的なファンを生み出すまでに成長させたということは恐るべき才能です。

日本酒界のスターとなった今、祐輔さんの一挙手一投足に注目が集まっていて、その情報を追いかけるミーハーなファンが多いのも事実です。僕もその一人。「次は何を仕掛けてくるんだろう」と期待せずにはいられないワクワク感を与えてくれる蔵であるのは祐輔さんの魅力によるものでしょう。

ただ、それだけではなく他にも複合的な要素が複雑に絡み合って僕の心を掴んでいるので、他の魅力についても触れていきたいと思います。ちょっと日本酒の専門用語が多くなってきますが、どうぞお付き合いください。

 

6号酵母発祥の蔵

一番右奥の醪タンクから6号酵母が分離されたらしいよ。

日本酒づくりにおいて欠かせないのが「酵母」です。現在多くの酵母が開発・培養され日本酒作りに活用されています。ほとんどの蔵では「きょうかい酵母」という日本醸造協会から頒布される酵母を使用して酒造りを行っていますが、現在使用されている最古の酵母が新政から分離された「きょうかい6号酵母」というものです。

1〜5号のきょうかい酵母は現在使用されていません。
まぁ古くから存在する酵母なので現在主流になっている最新の酵母なんかに比べると香りや発酵力は弱いです。

新政のお酒は全て「6号酵母」を用いて醸されています。全量6号酵母を使用している蔵は他にないでしょう。なぜなら香りが弱いから。香りが弱いと日本酒鑑評会などの賞レースにおいては圧倒的に不利です。しかし新政は全国新酒鑑評会で「不可能」と言われた(そもそもどこの蔵もメリットがないからアホらしくてやらない)6号酵母での金賞受賞を成し遂げたのです。しかも15年、16年と2年連続で。

15年度の金賞受賞酒と、そのお酒を造った醸造長の古関さんとの出会いは僕の日本酒人生を大きく変えました。

6号酵母の使い手としてはもはや新政の、いや。古関さんの右に出る人はいないでしょう。このお酒が発売された当時、古関さんは「僕の中での現時点においての6号酵母に対する答えはこのお酒にあります」と仰っていました。

飲んだ瞬間に感動してしまって黙ることしかできず、心臓がドキドキしたことを覚えています。

なんだか静かな森のなかにいるような。少し湿った緑のシンっとした空気と木漏れ日。そこに溢れる無数の生き物たちの小さなざわめき。そんな景色が一瞬で広がりました。

お酒を利いて何処かへトリップしたような体験を得たことはこれ以来ありません。僕にとってはそんな思い入れのあるお酒なのです。

 

秋田県産の酒米のみ使用

日本酒に少し明るい方なら「山田錦」というお米の名前を聞いたことがあるでしょう。「酒米の王様」と呼ばれ、多くの蔵で使用されている最もポピュラーな酒米です。

新政はこの山田錦を使用しません。それは秋田県産の酒米のみしか使わないと明言しているから。
秋田の酒を、秋田の米と、秋田の水と、秋田の酵母で作る。そういうこだわりを頑なに守っています。

自社精米!これ結構ビックリした。

今年から新政は「鵜養(うやしない)」という秋田県の山奥の限界集落にて自社での無農薬栽培の酒米作りをはじめました。

醸造長の古関さんが、鵜養に移住し農家として米作りをしています。

当時「古関さんが酒造りの現場から離れて農家をやる」という衝撃の展開に驚きましたが、新政の「チームとしての完成度の高さ」がそれを可能にしていて、新たなビジョンの具現化とチームとしての向上を両立させていました。

鵜養にある新政の田んぼ。約二町歩(約2万㎡)だそうです。ここのお米で作られるお酒が楽しみで仕方ない。

 

「全量生酛造り」と「本当の意味での無添加」

新政の酒母室。今年の酒母はかなりナイーブだそうで。どう仕上がることやら。

「酒母」と呼ばれる日本酒になる前段階の工程があるのですが、それを作る方法として、明治時代中盤まで主流だった「生酛(きもと)造り」という昔ながらの技法があります。この手法は多くの手間と時間がかかるため、現在多くの蔵では採用されていません。(増えてきてるけどね)

新政では現在全てのお酒をこの生酛造りにて醸造しています。新政の生酛造りは他の蔵のそれとは異なり特殊なビニール袋を利用して酒母を作るなど、新政独自の生酛造りにて酒母を立てています。

兵庫の灘で開発された生酛の手法とは異なり、秋田県という気候も水のミネラル分も違う環境で乳酸菌発酵を得るためのオリジナルの手法。毎年少しづつ創意工夫を凝らしながら、新たな挑戦を続け独自に進化してきた酒母作りが、現在の新政の「スッキリとした味わいの中に感じる”綺麗だけど複雑味のある酸”」の由来だといえるでしょう。

また表示義務のない添加物についても一切使用しません。あえてダサい言い方をするならばオーガニックということになるでしょう。生酛造りであれば「醸造用乳酸」を添加しなくて済みます。また麹の酵素を活性化させる「酵素剤」や、酵母を増殖させる「ビタミン類」「ミネラル類」なども使いません。

まさに自然が生み出した米と水と麹でできた本当の純米酒。そして僕がすごいと感じている点は「それでいて美味い」ということ。昔ながらの酵母で、昔ながらの技法を駆使し「秋田県産」にこだわり、それを無添加で醸す。それだけでも並大抵のことではないのに「驚くほど雑味がなく美味い」のだ。それゆえ、タンクごとに味がブレやすい。そのクラフト感も新政の特徴と言えます。

 

木桶のこと

その昔、日本酒は木桶を使って仕込んでいました。それが昭和25年(1950年)以降、全国の酒蔵の木桶が3年ほどで全てホーロータンクに切り替わったと言います。

ホーロータンクは木桶に比べて、微生物の働きをコントロールしやすいこと、管理・保管が容易であることが特徴に挙げられます。ホーロータンクが導入される前年に大きな腐造の年があったそうです。これによって大きく税収が下がってしまったため、国として衛生面の担保をさせたかったわけです。

また、木桶を使うと木に染み込んだお酒が揮発し、製造量が減ってしまうという面もあります。その消えてなくなるお酒を「神様の取り分」とか「天使の分け前」などと呼んだりしますが、これまた国としての税収が減ってしまうので、国策としてそれを防ぎたかった面もあります。

そんな背景があり国の政策によってほぼ絶滅した木桶ですが、最近は原点に立ち返り復活させる蔵が現れ始めました。新政のスタンスとしては「味わいももちろんだが、木桶という伝統的な文化を残していきたい」という社会的な側面が大きいと言います。現在、このサイズの木桶を作れるのは大阪の「ウッドワーク(藤井製桶所)」という会社のみです。

新政では後継者不足に悩むウッドワークに社員を送り込み、その技術をなんとか継承してもらうため毎年注文を入れて木桶を購入しています。2017年9月の訪問時には12本の木桶が稼働していて、今年また新たに4本届くそうです。将来的には鵜養に木桶だけで醸造する木桶蔵を作りたいという構想があるといいます。

味わいに関してはそこまで強く木の香りは移らない。ただ、ホーロータンクに比べて複雑味は格段に増しており、より深い味わいになっている。岡住くん曰く「木桶で仕込んだ熟成酒はマジで感動するぐらい美味いっす!」とのこと。

ただ管理にかかる手間ひまは想像以上で、カビたり、漏れたりしてしまうそうだ。それを岡住くんがビショビショになりながら桶の下に潜り込んで掃除をしているそうです。

そうした半端ではない労力を勘案しても、木桶で仕込むお酒の魅力は蔵人にとってやはり格別なもののようだ。

 

新政が好きなんですよねー

古関さん(写真左)とまるじ。

「不自由であることは自由だ」これは古関さんがよく使う言葉です。祐輔さんも同じようなことを雑誌のインタビューなんかで話しているのをよく目にします。

祐輔さんは自分たちの首を絞めるような無謀とも思えるビジョンを描く。それは酒造りにおける美学として、正しいと思ったことに対して妥協を許さないという姿勢からだ。

6号酵母のみ使用。秋田県産米で秋田の水。全量生酛造り。全量純米。添加物不使用。木桶での醸造。

新政のお酒はこれだけのハードルを超えた先に出荷され、僕達のもとへ届いている。

想像以上にこの制約はハードルが高い。ただ、その制約があることによって「これまでの価値観に頼らない新しい発想への転換」「独自の技術の開発」そして「あくなき探究心の向上」に繋がっている。

「それを達成するためにどうしたら良いか」を常に考えていて、とにかく彼らに思考を停止しているヒマはないのだ。

考えて考えて考えて、お酒に向き合って向き合って初めてその高いハードルを超えることができる。

そしてそのハードルを超えるための手段は「自由」だ。

 

岡住くんが「これ古関さんが手作りしたんですよ」と言って紹介してくれた機械がある。

「これで浸漬したお米をバキュームして水分を飛ばすんです。ホームセンターにある材料で作ったんですよ。」と言っていた。確かに手作り感満載だ。

実はこの脱水の作業に使われる機械は業者に注文すればいくつか存在する。米の脱水に高価な遠心分離機を使う蔵もたくさんある。高価な機械を使えば良いと言うものではなく、自分たちが描いた理想の状態を実現するための創意工夫が新政には溢れていた。

 

 

僕は新政を「ジブリ」みたいなものだと思ってて。

 

 

佐藤祐輔という稀代のスーパースターがいて。その思想をお酒で表現している古関さんがいる。そして岡住くんのような熱い志を持った蔵人たちがさらにその想いに応えている。その結晶が「お酒という作品」に集約されているのだ。

 

僕が「新政のお酒」が好きだというのは間違いない。
ただ、そのお酒が出来上がるまでの背景もひっくるめて好きなのだ。

 

だから僕は新政が好きなんですよねー」と答える。

 

 

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